契約書に書かれていない曖昧な線引きをいかに柔軟に対応するか。派遣女子3人が語るリアル派遣ライフ。(後編)
目次
派遣社員で働いていると、日々いろんな人に出会います。
ここでは、キャリアも年齢も異なる3人がこれまでの仕事の中で出会った“スーパー派遣社員”をご紹介。
そして、そんな派遣ライフから見えてきた、彼女たちの考える“デキる派遣社員”像とは?
飾らない等身大の派遣社員の声をお楽しみください。
勝田 美奈(かつた みな)さん
外資系化学メーカーで事務職を経験した後、専門学校にて栄養士の資格を取得。その後は派遣社員として様々な企業で活躍する。
RDサポートには2007年に登録。現在は、これまで培ってきた官能検査の経験を活かし、製品の出荷判定等の業務に携わっている。
所有資格:栄養士。管理栄養士。実用英語検定2級。ヘルスケアフードアドバイザー。
鳥居 靖子(とりい やすこ)さん
栄養系の四大を卒業し、病院にて栄養士業務に就く。その後、食品メーカーにて商品開発や品質保証などに関わる。
RDサポートでは2008年より就業開始。現在は大手冷凍食品メーカーにて規格書の作成等の業務を行っている。
所有資格:栄養士。管理栄養士。実用英語検定2級。産業カウンセラー。
有浦 紗也子(ありうら さやこ)さん
農業大学にて生物科学について学んだ後、個別指導塾で塾運営・講師業に就く。
その後、分析業務を志望し、RDサポートに登録。香料メーカーでのサンプルマネジメント業務を経て、現在は某法人にて穀物の残留農薬分析などを担当。
所有資格:中学校教諭普通免許、高等学校教諭普通免許、実用英語検定3級。
派遣の仕事は単調? 前に出すぎちゃダメ? 現役派遣女子の本音の悩み
――みなさん充実した派遣ライフを送っているようですが、その中で悩みを感じることはありますか?
勝田:いろんな会社で働けるのが派遣の楽しさではあるけれど、その裏返しでひとつの会社にずっととどまっているわけにはいられないというのが派遣の悩ましいところ。
今の職場もそうなんですけど、すごくいい職場に出会うたびに、期限が来たら離れなきゃいけないのが寂しくなります。
鳥居:派遣って契約で業務内容が決められているんです。
私は今の就業先でお世話になってもう5年になるのですが、時折、ずっと同じ業務を担当しているゆえの停滞感に悩むことはありますね。
みなさんは仕事が単調に感じてしまったときって、どんなふうに対処していますか?
勝田:あんまりやりすぎてしまうと自分の仕事量が増えるので考えものですけど、業務を通じて気づいた問題点に関しては改善案を考えて社員の方たちに提案するようにしています。
私の場合、わりとコンパクトな会社にいることが多いので、そんなふうに自分からいろいろ働きかけると喜んでもらえるんですが、大企業だとなかなかそうはいかないですよね。
鳥居:大きな企業にはしっかりしたルールがありますからね。
特に同じフロアには、別の派遣会社を含め、複数の派遣社員がいるので、自分ひとりがあまり前に出すぎるのは良くないのかなって思うときもあります。
――同じ派遣という立場だからこそ、デリケートなものがありそうですね。派遣の方々と一緒に働く上で心がけていることはありますか?
有浦:私もいろんな派遣会社からやってきた女性たちと働いているんですけど、逆に仕事中はそういうことを全然気にしていないかもしれません。
私が派遣のメンバーの中でも在籍年数が長いからというのもありますが、自分から積極的に話しかけたり、一緒にお茶を飲んだり、同じ働く仲間としてこまめにコミュニケーションをとるようにしています。
鳥居:確かにコミュニケーションは重要ですよね。これは派遣に限らず言えることですが、わからないことがあれば素直に聞くこと。
「忙しそうだから…」という理由で先延ばしにしても、結局後で困るのは自分なんですよね。だから、疑問点についてはちゃんと聞くようにしています。
有浦:自分が逆の立場だったら、わからないことはちゃんと聞いてほしいって思いますしね。
勝田:声かけは本当に重要。私の職場は派遣社員は私しかいないので、社員の方々とコミュニケーションをとる上で大事にしていることになっちゃうんですけど、やっぱり帰る時間は私たちの方が早いわけじゃないですか。
だけど「定時になったから帰ります」ではなく、せめて周りに「何かやることはありますか?」って一言かける。
それだけで相手の印象も全然違いますからね。
実録・神の舌を持つ女!? 私が見た、ドラマのような“スーパー派遣社員”
――今まで見てきた中で、「この人はスゴい!」っていう“スーパー派遣社員”はいましたか?
勝田:私が担当している官能検査っていうのは、出荷前の製品を試食・試飲して異常がないかチェックする仕事なんですね。
だから味覚に問題がないか確認をするために、3つのサンプルのうち1つだけ異なるサンプルを見抜く3点識別法っていうテストを定期的に実施するんです。
以前の職場で、それが毎回百発百中の方がいて。「神の舌を持つ女だ!」って驚きました(笑)。
鳥居:デキる方っていらっしゃいますよね。私は今、規格書の作成業務を担当しています。
規格書とは、営業さんが取引先の方に商品について説明をするために、商品の原材料や製造工程などを細かく記載したもの。
当然、冷凍枝豆のような原材料が少ない農産品に比べて、グラタンやクリームコロッケといった商品は記載事項が多くて手間がかかります。だからそうした商品を担当するのを嫌がる人も多いんですよ。
でも、私が見たその人は逆! そういう複雑な商品の方が燃えるらしくて、みんなが敬遠する原材料の多い商品を喜んで引き受けていました。
勝田:派遣社員と言っても人それぞれで、私のようにプライベートを大事にしたい人もいれば、働くのが何より楽しいという方もいる。
ある職場で、出社したらメールやファックスといった通信機器がすべて不具合で不通になっていたことがあって。
そうしたらみんなやることもないし適当に時間をつぶそうという空気になるじゃないですか。
でも、その方は違う。「こんなときこそ倉庫を掃除するよ!」って張り切って倉庫の片づけをされていました。
鳥居:すごい。圧倒されますね。
勝田:その方はお子さんもいらっしゃって、旦那さんもしっかりされた方だし、あくせく働かなきゃいけない理由なんて全然ないんです。
でも聞いたら、「働かないと物足りないんだよね」っておっしゃっていて。私とは違う人種だと思いました(笑)。
有浦:優秀ゆえに社員の方にも影響を与える派遣社員の方はいますよね。もう辞めてしまった方なんですけど、すごい方がいて。
どんな種類の分析もできるし、難しい内容の実験も絶対に失敗しない。まさにドクターXみたいな感じです(笑)。
その方が辞めたおかげで周囲のみなさんが困るくらいでした。
「私の仕事じゃありません」と突っぱねても角が立つだけ。程良いバランス感覚が“デキる派遣社員”の絶対条件。
――では、企業から必要とされる“デキる派遣社員”ってどういうものなんでしょう?
鳥居:これは私の考えなんですけど、専門性を持つということは大事だと思います。
職種でも業種でもどちらでもいいので、長年継続して取り組んできたものがあるかどうか。
RDサポートの派遣社員が企業から求められるのも、食品という専門性を持っている人が多いからというのはある気がしますし。
勝田:難しいですよね。たとえばさっき有浦さんがおっしゃっていた方って、確かに優秀だとは思いますが、その方が辞めてしまって困るくらいの影響力の高さって、プロフェッショナルな派遣社員という意味で考えると、どうなんだろうと思ってしまったり。
有浦:確かにひとりの働き手としての優秀さと、派遣社員としての優秀さは別かもしれませんね。
派遣社員は契約にないことはできない、というのが大前提。ただ、やっぱり社員の方々は派遣社員にいろんな役割を期待されていると思います。
だから大事なのは、それを裏切らないこと。
たとえば、私だったら主業務は分析や実験ですが、その他にもオフィスのゴミを回収したり、細々とした業務はいくらでもある。それを言われる前に気づいてできるかどうか。
もし自分が気づく前に社員の方からお願いされたとしても、それを嫌がらずにできるかどうか。
そういう姿勢って、気持ちよく一緒に働く上では、とても大切なことだと思います。
勝田:何でもかんでも言われたことを丸抱えしてしまったら、結局、契約で取り決めしたことがなし崩しになってしまう。そういう事例を私も過去に何度も見てきました。
だから、ちゃんと一線を引く部分も重要です。とは言え、お願いされたことに対して「それは私の仕事じゃありません!」って頑なに突っぱねても角が立つだけ。
企業は、ひとつの国。私たちは、その国に短期滞在している身です。だから「波風立てず」「立つ鳥跡を濁さず」が私の信条。
会社の中には、契約書には書ききれない曖昧な線引きというのが山ほどある。それをよく承知した上で、どう柔軟に対応できるかがポイント。
そのバランスが上手い人こそが、カッコいい“デキる派遣社員”なんじゃないかなと思います。
Writer’s Eye
正社員と派遣社員。同じ職場で働く間柄とは言え、立場が違うからこそ、両者には繊細な気遣いが大事。
3人の会話から、一緒に働く仲間だからこそ、自分の主義主張も通しつつ相手の考えや立場を尊重するコミュニケーション力の重要性が浮き彫りになってきました。
仕事は自分ひとりで成り立つものじゃない。いろんな人の協力や関係が重なり合うことで、職場は成立しています。
だからこそ、ワガママや自分本位な行動はNG。
一歩引いた立場から物事を客観視するクールな目線が、様々な企業という名の国を渡り歩く派遣社員の流儀と言えるかもしれません。
取材・文:横川良明
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